この記事では硫化物イオンによる沈殿の
重要ポイントについてわかりやすく解説していきます。
Contents
硫化物イオンによる沈殿
$S^{2-} $(硫化物イオン)による沈殿について解説していきますね。
硫化物イオンによる沈殿はある気体を使います。
かの有名な$H_2S $(硫化水素)という気体です。
以前の記事で硫化水素は弱酸だと解説しました。
$H_2S $⇔$2H^{+} $+$S^{2-} $
硫化水素は弱酸だから反応式は平衡(⇔マーク)になっています。
硫化水素は酸性だけど弱いってことです。
なので沈殿を考えるとき、
酸性と塩基性に分けて考える必要があります。
どうして酸性と塩基性に分けて考えないといけないか?
はこれからの解説を読んでいただければ理解できると思います。
硫化物イオンの沈殿(1)酸性のとき
酸性のとき、【$H^{+} $】(水素イオン濃度)は非常に高いです。
かの有名なフランス人を思い出してほしいです。
ルシャトリエの平衡移動の法則です。
話を元に戻します。
酸性の状況ということは【$H^{+} $】(水素イオン濃度)は非常に高いです、
ということは
$H_2S $⇔$2H^{+} $+$S^{2-} $
上記反応式において右辺の水素イオン$2H^{+} $が
いっぱい存在するということです。
どんな世界でもそうだと思いますが、
偏っていると元に戻そうとします。
なので右辺から左辺へと平衡は左に移動します。
$H_2S $←$2H^{+} $+$S^{2-} $
ということです。
わかりやすくいうと
右辺の水素イオン$2H^{+} $が多すぎるから
少し減らそうと平衡が左に移動したってことです。
平衡が左に移動すると右辺にある$S^{2-} $はかわいそうです。
なぜなら$S^{2-} $は何も悪いことしてません。
でも、平衡が左に行くと$S^{2-} $も減ってしまいますから。
だって$2H^{+} $と一緒に$S^{2-} $も減りますからね。
よって、酸性の条件下では$S^{2-} $(硫化物イオン)濃度が小さくなります。
ということは硫化物の沈殿は$S^{2-} $が少なくなるので沈殿しにくいということです。
平衡が左に移動
⇒$S^{2-} $が少なくなる
⇒硫化物が沈殿しにくい状況になる
ということです。
硫化物イオンの沈殿(2)塩基性のとき
塩基性(アルカリ性)のときはどうなるでしょう?
塩基性ということだから$OH^{-} $が多い時です。
でも、酸性の逆だと考えた方がわかりやすいと思います。
つまり、【$H^{+} $】(水素イオン濃度)が小さいときと
考えた方が理解しやすくなります。
確かに塩基性の状況=$OH^{-} $が多い時であってます。
でも、それだと遠回りになりますから。
だから塩基性の状況=【$H^{+} $】(水素イオン濃度)が少ないとき
と考えるようにしましょう。
【$H^{+} $】(水素イオン濃度)が少ないということは
補ってあげたくなりますよね。
$H_2S $⇒$2H^{+} $+$S^{2-} $
ということは平衡は右に移動することになります。
そうすると$S^{2-} $(硫化物イオン)は
何もしてないけどどんどん増えることになります。
だって平衡が右に移動するということは
$S^{2-} $もできるわけですからね。
なので$S^{2-} $(硫化物イオン濃度)は増えます。
ということは硫化物イオンがたくさんあるので
当然、硫化物はできやすくなります。
なので沈殿しやすくなるはずです。
平衡が右に移動
⇒$S^{2-} $が増える
⇒硫化物が沈殿しやすい状況になる
以上の基本をしっかりマスターしてください。
硫化物イオンの沈殿(3)イオン化傾向
イオン化傾向を覚えていますか?
覚えてない方はこちらをご覧ください。
Li > K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H2) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au
でしたね。
Li(リチウム)が一番イオン化傾向が大きく、
Au(金)が一番小さいです。
上記イオン化傾向を前提に硫化物イオンの沈殿を考えていきましょう。
すると以下の3つに分けることができます。
(A)LiからAlまで
(B)ZnからNiまで
(C)SnからAuまで
のことです。
イオン化傾向について書いた記事で解説しましたが、
イオン化傾向が大きいということは『溶けやすく錆びやすい』ということです。
⇒イオン化傾向が大きいほど何がいえるか?
ということで
『LiからAlまで』はイオン化傾向が大きいので溶けやすいです。
逆にイオン化傾向が小さい『SnからAuまで』というのは
溶けにくいということです。
もうちょっと考えてみましょう。
『LiからAlまで』の溶けやすいものは沈殿しにくいということです。
溶けにくいから沈殿しやすいのです。
逆に溶けやすいということは溶けるから沈殿はしません。
だからイオン化傾向が大きい『LiからAlまで』は
溶けやすいから沈殿しにくいということです。
・イオン化傾向が大きい⇒溶けやすい⇒沈殿しにくい
・イオン化傾向が小さい⇒溶けにくい⇒沈殿しやすい
ということです。
ここまで踏まえると
イオン化傾向が大きい『LiからAlまで』というのは
どんなに条件をよくしても沈殿しません。
溶けるからです。
これに対してイオン化傾向が小さい『スズ(Sn)からAu)』は
溶けにくいから沈殿しやすいです。
沈殿しやすいということは酸性『でも』沈殿するこということになります。
酸性『でも』の『でも』がポイントです。
さっき解説したように酸性というのは沈殿しにくい条件でした。
これに対してイオン化傾向が小さいSn(スズ)以下ものものであるなら
沈殿できるということです。
イオン化傾向が小さいSn(スズ)以下の物質は溶けにくい
⇒ということは沈殿しやすい
⇒だから酸性という沈殿しにくいという条件でも沈殿できる
ということです。
これに対してイオン化傾向が真ん中の『(B)ZnからNiまで』というのは
Sn(スズ)以下のものよりももうちょっと溶けやすいということだから
もうちょっと沈殿しにくいということがわかります。
だから沈殿しやすい条件にしないと沈殿ません。
逆にもうちょっと条件をよくしたら沈殿します。
よって、イオン化傾向が真ん中の『(B)ZnからNiまで』というのは
塩基性であれば沈殿するということです。
『(B)ZnからNiまで』は『(C)SnからAuまで』よりも
もっと溶けやすいから、もっと条件をよくしてあげる必要があるということです。
つまり塩基性条件のみ。『(B)ZnからNiまで』の場合は沈殿するということ。
さらに溶けやすい『(A)LiからAlまで』は
いくらいい条件でも沈殿しません。
塩基性条件でも酸性条件でも沈殿しないということです。
ものすごく溶けやすいからどう頑張っても沈殿せず溶けてしまいます。
こんな感じでイオン化傾向の大小のイメージと
組み合せると硫化物イオンにおける沈殿問題は簡単に解くことができるはずです。
硫化物イオンの沈殿(4)色
硫化物の沈殿は一般に黒です。
みんな黒です。
$CuS $↓(硫化銅)の沈殿は黒ですし
$PbS $↓(硫化鉛)の沈殿も黒です。
$Ag_2S $↓(硫化銀)の沈殿も黒になります。
こんな感じで硫化物の沈殿はみんな黒です。
逆にいうと黒い沈殿を見たら「硫化物では?」と疑ってかかってOKです。
それくらい黒ばっかりです。
ただ例外が3つあります。
例外もしっかりと覚えておきましょう。
1つ目の例外は
$ZnS $↓(硫化亜鉛)の沈殿で白です。
硫化物の沈殿で白は$ZnS $↓(硫化亜鉛)だけです。
それから$CdS $↓(硫化カドミウム)の沈殿は黄色です。
カドミウムって知ってますか?イタイイタイ病という公害病の原因です。
ちなみに$ZnS $↓(硫化亜鉛)と$CdS $↓(硫化カドミウム)は
利用されています。
$CdS $↓(硫化カドミウム)は危険そうですけど、
沈殿しているので知識や技術がある方が利用すれば問題ありません。
$CdS $↓(硫化カドミウム)はカドミウムイエローという名称で
絵の具として利用されています。
硫化カドミウムは酸化亜鉛みたいに絵の具の原料になるから影薄くないな、と思った。確かに問題でみたことないけど。
— ミョウバン (@n_curlygirl) January 21, 2012
また、$ZnS $↓(硫化亜鉛)は絵の具の白色として利用されています。
絵の具といえば、白はチンクホワイトなんて言われるのがあります。これ、硫化亜鉛です。
— エルモア (@Ellemoi_tissue) May 15, 2020
こんな感じで結構、実生活で利用されているわけですね。
ちなみに黒い絵の具は硫化物の沈殿ではありません。
カーボンブラックといって黒鉛です。
そして3つ目は$MnS $↓(硫化マンガン)で淡紅(たんこう)色の沈殿ができます。
簡単にいったらピンク色です。
$CuS $↓(硫化銅)・・・黒
$PbS $↓(硫化鉛)・・・黒
$Ag_2S $↓(硫化銀)・・・黒
$CdS $↓(硫化カドミウム)・・・黄色
$ZnS $↓(硫化亜鉛)・・・白色
$MnS $↓(硫化マンガン)・・・淡紅(たんこう)色
でした。
以上で解説を終わります。