今回の記事ではブレンステッドローリーとアレニウスによる
酸・塩基の定義の違いについてわかりやすく解説します。
ただ、いきなり結論だと理解しにくいと思いますので
先に価数について解説しますね。
Contents
ブレンステッドローリーとアレニウスによる酸・塩基の定義
価数と強弱の関係とは?
酸塩基を理解しようと思ったら価数と強弱についての理解はマストです。
まず塩酸($HCl $)から。
$HCl $⇒$H^{+} $+$Cl^{ー} $
ややこしい話かもしれませんが
同じ$HCl $であっても塩化水素の水溶液を塩酸といいます。
塩化水素を水に溶かすと塩酸ができるってことです。
で、$HCl $が水に溶けると電離して$H^{+} $(水素イオン)を出します。
電離についてはこちらの記事で解説しています。
・電離度の求め方(公式を利用した方法)
この$H^{+} $(水素イオン)が酸性の原料です。
おそらくあなたも塩酸は酸性だということを知っていると思います。
なので、「???」とはならないでしょう。
ところで
$HCl $⇒$H^{+} $+$Cl^{ー} $
は塩酸は$HCl $から$H^{+} $(水素イオン)が1個出るので1価です。
1価などの価数についてはこちらで詳しく解説しています。
・価数とは?わかりやすく解説【化学】
そして塩酸は$HCl $は強酸です。
これは知っている方が多いでしょう。
強酸とか弱酸の違いがわからない方はこちらをご覧ください。
・酸と塩基の強弱って何が違う?
つまり、塩酸($HCl $)といったら1価の強酸だと表現できます。
次に$H_2SO_4 $(硫酸)について考えてみましょう。
$H_2SO_4 $⇒$2H^{+} $+$SO_4^{2ー} $
水素イオン$2H^{+} $が出ていますね。
ですから酸性です。
しかも2つ水素イオンが出ているので2価です。
2価なので1価の2倍の働きができると考えると理解しやすいでしょう。
価数についてはこちらで詳しく解説しています。
・価数とは?わかりやすく解説【化学】
もちろん硫酸は強酸です。
なので$H_2SO_4 $(硫酸)は2価の強酸ということができます。
硫酸は強酸だから溶けるとか印象がありますが、恐いのは脱水作用です。皮膚の水分が吸い取られ、希釈熱が発生するので被災者は必ず熱いと訴えます。脱水作用による希釈が飽和するまで&熱を吸収させるため、大量の水で流します。
— OHBA, Makoto (@_dachang) August 24, 2021
こんな感じで1つ1つ酸や塩基に対して価数や強いか弱いか
調べて覚えておくと、あとの学習が楽になってきますよ。
次に$NaOH $(水酸化ナトリウム)についてみていきましょう。
$NaOH $(水酸化ナトリウム)も水に溶かすと電離します。
$NaOH $⇒$Na^{+} $+$OH^{ー} $
電離して$Na^{+} $(ナトリウムイオン)と$OH^{ー} $(水酸化物イオン)がでます。
$OH^{ー} $が塩基性(アルカリ性)のもとです。
$NaOH $(水酸化ナトリウム)の価数は1価の強塩基(強アルカリ)です。
電離についてはこちらの記事で解説しています。
・電離度の求め方(公式を利用した方法)
それから塩基とアルカリの違いについてはこちらで解説しています。
・アルカリと塩基の違いをわかりやすく解説
次に$CH_3COOH $(酢酸)はどうでしょう?
酢酸は有機化合物なので、ちょっとややこしいです。
$CH_3COOH $⇔$CH_3COO^{-} $(酢酸イオン)+$H^{+} $(水素イオン)
酢酸は酢酸イオンと水素イオンに電離します。
酢酸の場合、$H^{+} $(水素イオン)が出ているので酸性だとわかりますね。
ちなみに$CH_3COO^{-} $(酢酸イオン)についている水素(H)はとれません。
$CH_3COOH $で電離するのは右端の水素(H)だけです。
だから$H^{+} $(水素イオン)1個しか電離しません。
なので$CH_3COOH $(酢酸)は1価です。
そして酢酸はお酢として私たちが飲むものでもあるので
強酸なわけがありません。弱酸です。
よって$CH_3COOH $(酢酸)は1価の弱酸です。
$CH_3COOH $⇔$CH_3COO^{-} $(酢酸イオン)+$H^{+} $(水素イオン)
酢酸が弱酸だというのは上記式の⇔(矢印)に現れています。
『⇔』は平衡(化学平衡)です。
化学平衡についてはこちらの記事で解説しています。
・化学平衡についてわかりやすく解説
$CH_3COOH $が一度、$CH_3COO^{-} $(酢酸イオン)+$H^{+} $(水素イオン)になりますが、
元の$CH_3COOH $に戻ってしまうのです。
だから『⇔』になります。
たとえば100個の$CH_3COOH $が$CH_3COO^{-} $(酢酸イオン)+$H^{+} $(水素イオン)になっても、
残り99個は元の$CH_3COOH $に戻ってしまうくらいのイメージです。
つまり、1%しか電離しないってことです。
なので、$H^{+} $(水素イオン)がほとんどできないため酢酸は弱酸なのです。
それから、$NH_3 $+$H_2O $(アンモニア水)について考えてみましょう。
アンモニア水とは$NH_3 $(アンモニア)を水に溶かしたもののことです。
$NH_3 $+$H_2O $⇔$NH_4^{+} $+$OH^{ー} $
$NH_3 $(アンモニア)は$H_2O $(水)と反応すると
$OH^{ー} $(水酸化物イオン)を出します。
$OH^{ー} $(水酸化物イオン)は塩基性で1個しかありません。
なので価数は1です。
なので1価です。
そしてアンモニア水は弱いです。
なので1価の弱塩基です。
ちなみに私は獣医師として日々、犬や猫の治療をしています。
⇒当ブログ管理人のプロフィール
もし犬や猫がアリに噛まれて腫れた場合には
アンモニア水を処方して患部に塗ってもらうことがあります。
実際アンモニア水の効果効能には『虫刺され』が記載されています。
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アリなどの一部の虫が犬や猫を噛んだり刺したりするときに、
ギ酸という酸を出します。
ギ酸を中和するためにアンモニア水という弱塩基を利用するわけですね。
とにかくアンモニア水は皮膚に塗る薬でもあるくらいなので
強アルカリ(強塩基)なわけがありませんね。
そこからもアンモニア水が弱塩基であることがわかりますね。
よってアンモニア水は1価の弱塩基です。
また、
$NH_3 $+$H_2O $⇔$NH_4^{+} $+$OH^{ー} $
先ほどと同様式が『⇔』と平衡になっていますね。
アンモニア水が反応して水酸化物イオンになったとしても
またアンモニア水に戻ってしまうわけです。
酢酸と同様、100のアンモニア水のうち1個くらいが水酸化物イオンとして残る程度です。
つまり1%くらいしか電離しません。
なので、$OH^{ー} $が少ないから弱塩基なのです。
ちなみに強酸とか強アルカリとか弱酸とか弱アルカリとか
言ってますが、中和などの項目などで必須なのでよく覚えておきましょう。
また、ブレンステッドローリーとアレニウスを理解するためにも
価数と強弱は必ず理解し代表的なものは覚えておきましょう。
中和とは?(ブレンステッドローリーとアレニウスを理解する大前提)
中和とは酸と塩基がぶつかってお互いが打ち消し合うことをいいます。
中和に関する詳しい解説はこちらでもしています。
・中和反応とは?簡単にわかりやすく解説
たとえば
$H^{+} $+$OH^{ー} $
はどんな反応をするでしょう?
プラスの$H^{+} $とマイナスの$OH^{ー} $が反応するので
お互い電荷を打ち消し合います。
結果、イオンではなくなり、水になってしまいます。
よって
$H^{+} $+$OH^{ー} $⇒$H_2O $(水)
となります。
これが中和です。
言葉で表すと水素イオンと水酸化物イオンがぶつかって
お互いに打ち消し合って水になってしまった、これが中和です。
ちなみに$H^{+} $が酸で$OH^{ー} $が塩基(アルカリ)なので
中和のことがよくわかったと思います。
こんな感じで中和というのは$H^{+} $(水素イオン)と$OH^{ー} $(水酸化物イオン)が
お互いに打ち消し合って水になってしまう反応のことです。
ブレンステッドローリーとアレニウスによる酸・塩基の定義
ここまでの内容がわかったら
ブレンステッドローリーとアレニウスによる酸・塩基の定義は
すんなりと頭の中に入ってくると思います。
まずアレニウスによる酸・塩基の定義から。
・$H^{+} $(水素イオン)を出す物質を酸
・$OH^{ー} $(水酸化物イオン)を出す物質を塩基
としました。
ここまでの解説で価数と強酸とか強塩基みたいな解説をしたので
なんとなくわかると思います。
上記はアレニウスさんが発表した酸、塩基の定義です。
ただ酸、塩基の定義は1つだけではありません。
アレニウスの定義に対して「本当にそうか?」みたいな疑問を投げかけ
新たに酸、塩基の定義を発表した人がいました。
それがブレンステッドさんとローリーさんです。
先にブレンステッドさんが発表し、ローリーさんが後に加勢した形です。
ブレンステッドさんは「アレニウスの定義は狭すぎる」と酸、塩基の定義が変わりました。
アレニウスの定義よりももっと進化した形になったんですね。
・$H^{+} $(水素イオン)を出す物質を酸
・$H^{+} $(水素イオン)を受け取る物質を塩基
ブレンステッドとアレニウスの共通点はどちらも
酸は$H^{+} $(水素イオン)を出す物質という点です。
・アレニウスは$OH^{ー} $(水酸化物イオン)を出す物質を塩基
・ブレンステッドは$H^{+} $(水素イオン)を受け取る物質を塩基
という点です。
なので、ブレンステッドとアレニウスでは塩基の定義の仕方が違うということですね。
ブレンステッドによる酸と塩基の定義は
$H^{+} $(水素イオン)のキャッチボールであると考えました。
酸の反対が塩基だということです。
だから$H^{+} $(水素イオン)を出すのが酸だったら
$H^{+} $(水素イオン)を受け取るのが塩基だと考えたのがブレンステッドです。
たとえば、
$NH_3 $+$H_2O $⇔$NH_4^{+} $+$OH^{ー} $
$NH_3 $は$NH_4^{+} $になってますね。
$H^{+} $をもらってますね。
だから$NH_4^{+} $と水素が4個になっているわけです。
ということは$H^{+} $(水素イオン)を受け取っているので
ブレンステッドの定義によると塩基だということができますね。
それから右辺にある$OH^{ー} $ですが、
左辺に戻ると$H_2O $(水)になりますね。
明らかに右辺の$OH^{ー} $はアンモニアにはなりませんよね。
$OH^{ー} $が$H^{+} $をもらって$H_2O $になっていると
考えることができますね。
つまり、$OH^{ー} $は$H^{+} $を受け取って水になるから
$OH^{ー} $は塩基だということができますね。
$NH_3 $+$H_2O $⇔$NH_4^{+} $+$OH^{ー} $
それから$NH_4^{+} $(アンモニウムイオン)は
逆反応で$NH_3 $(アンモニア)に戻りますね。
$NH_4^{+} $が$H^{+} $を出して$NH_3 $になっていますね。
だから$NH_4^{+} $は酸だということです。
逆反応の意味についてはこちらで解説しています。
・化学平衡についてわかりやすく解説
それから左辺の$H_2O $は右辺に行くと$OH^{ー} $になりますね。
$OH^{ー} $になるときに$H_2O $は$H^{+} $を出していますね。
それで帳尻があいますからね。
ということは$H_2O $は本来なら中性ですが、
ブレンステッドの定義だと酸だということですね。
こんな感じで実際(水は中性だという事)と定義(水が酸になってしまったこと)は別です。
こういう矛盾は化学を勉強していたらよく出るので、あまり悩まないでくださいね。
実際に何性かと定義による酸塩基は別の話だということでした。
以上で解説を終わります。